あくまで法律のはなし

なぜか福岡で働くことになった弁護士が、なぜか福岡で独立しなければならなくなったブログ

交渉の方法-書面か電話か-

弁護士になってから、不貞慰謝料請求事件を何度もやりました。

弁護士としては、請求する側よりも、請求されている側の方が、気が楽です。たとえ証拠が万全でも、相手にお金を払わせる交渉というのは、そう簡単なことではないからです。逆に、お金を払う側であれば、最終的には払わなければならないという覚悟さえあれば、あとはギリギリまで減額交渉をするだけです。

ごね得と言われるかもしれませんが、金銭交渉においては、非がある側ではなく、金を払う側の立場が強くなるということですね。

 

ところで、特に不法行為等の相手の落ち度を根拠にする場合に顕著なのですが、金銭を請求する難しさというのは、加害者にならないように気を付けなければならないという点にもあります。刑法上、恐喝罪(刑法249条1項)は、正当な権利を行使する場合でも成立しうると考えられています。また、交渉をする際、相手を精神的に追い詰めたりすると、不当な交渉方法ということで、弁護士会から懲戒される可能性もあります。

特に、不貞慰謝料のような事件の場合、できるだけ有利になるように、相手を心理的に追い詰めて交渉するのは、依頼者が期待するところでしょう。弁護士としては、相手方から不当な脅しを受けたと言われないように気を使いながら、圧力をかけていかなければならないわけです。

しかし、どこまでが許される交渉方法なのかは、微妙なラインなので、簡単に判断できることではありません。おそらく、弁護士によっても、かなり判断が分かれるのではないでしょうか。

 

私の場合(たぶんほかの弁護士も同じだと思いますが)、両親や勤務先に暴露すると脅しをかけてほしいという要望には、応じないようにしています。基本的に、無関係の人たちに暴露する行為は、必要性が認められないので、違法な名誉毀損と考えられるからです。特に、勤務先に暴露してしまうと、相手方が勤務先を辞めてしまい、訴訟で勝訴しても、給料を差し押さえるなどの手段が取れなくなってしまう可能性もあります。それでは依頼者の利益にもなりません。

他方、依頼者の要望に応えるために、原則、書面ではなく、電話で交渉するようにしています。よく相手に圧力をかける趣旨で、内容証明を送ってほしいと希望する方がいますが、書面の場合、相手方は、何度も読み返して考えることができますし、弁護士等に見せて相談することも容易です。これに対して、電話交渉の場合、依頼者の怒りをストレートに伝えやすく、相手方が、他人に相談するハードルも高くなります。突然かかってきた電話をとっさに録音などできないでしょうから、後で脅されたと言われないようにしつつ強い口調で交渉するには、ファーストコンタクトは電話の方が都合が良いのです。

弁護士のなかには、電話交渉を避け、原則書面で交渉するタイプの人もいるようです。最近は、振り込め詐欺が問題になったりしていますので、書面も送らずに、いきなり弁護士から電話をかけて金銭を請求することに疑問を覚える人もいるみたいです。しかし、最初に書面を送るのは良いとしても、やはり相手に代理人弁護士がついているわけでもないのに、書面だけの交渉に終始するのは、慰謝料交渉のような泥臭い交渉では、効果的でないと考えています。

交渉事で弁護士を選ぶときは、その弁護士が、どんな方法で交渉を進めるタイプなのかを確認すると良いでしょう。