AIに仕事を奪われる心配をしている弁護士はいない

 最近、AI(人工知能)に関するネットや雑誌の記事を目にすることが増えました。しかも、その内容は、「AIによって消える職業」というように、労働者の不安を煽るようなものが多いです。弁護士の仕事も、AIによって消えるかもしれないと書かれることがあります。実際のところ、将来的にどうなるかは知りませんが、とりあえず、現役の弁護士で、AIに仕事を奪われる心配をしている人はいないということをメモしておきます。

理由その1 素人目に見てもAIはそんなに進化していない

 近年、スマートフォンの普及などにより、社会が劇的に変化したように言われますが、技術的には、果たして、それほど進歩しているのでしょうか?スマートフォンの機能は、「電話付き小型パソコン」であり、機能的には、私が子供のころから、すでに実現していたものです。それを手のひらサイズで持ち運べるようになったのはスゴイことですし、それが社会にもたらした変化も相当なものです。しかし、人類の技術が劇的に進歩したのかというと「?」と思わざるを得ません。

 また、自動車の自動運転技術の開発も話題になっていますが、まだまだ実験段階であり、実用化には程遠いように見えます。AI弁護士の実現に比べると、自動で目的地まで移動するだけの自動車なんて、技術的には、もっと容易に思えますが、それでも課題山積なのです。

 それなのに、自分で学習し、自分で課題を発見し、自分で解決策を提示するAIが、人の仕事を奪うところまで、すでに来ているというのでしょうか?私には、そうは思えません。

理由その2 AIよりも、法改正の方が心配

 弁護士の仕事は、司法制度の改正よって増減されます。

 たとえば、刑事弁護であれば、現在、死刑、無期又は長期3年を超える懲役又は禁錮に当たる犯罪につき勾留されている被疑者について国選弁護人を付すことしかできませんが、平成30年6月1日から、勾留されている全ての被疑者について、国選弁護人を付することが可能となります。まあ、刑事国選は、弁護士にとって不採算な仕事ではありますが、それでも制度改正によって、仕事量が増えることに違いはありません。逆に言えば、制度を改正すれば、国選弁護人の仕事は減らせるということです。そして、制度改正によって、仕事量が増減するのは、民事においても同様なわけです。

 つまり、現役の弁護士にとっては、技術革新で仕事を奪われることよりも、制度改正に翻弄される可能性の方がはるかに大きいので、AIに仕事を奪われる心配なんかしないのです。

理由その3 AIよりも、弁護士の数の方が心配

 言うまでもありませんね。司法試験合格者増加により、弁護士の数は増え続けており、弁護士の所得は年々下落しています。生きているうちに実現するかどうかも分からないAIなんかより、確実に見込まれる弁護士数増の方が、脅威なのです。

理由その4 我々は紙の訴状に印紙を貼って、印鑑を押して、郵送している

 裁判所が本格的なIT化を検討し始めたのは最近のことです。これにより、訴状などを電子データで提出できるようになることが期待されています。

 しかし、そんなことは、とっくの昔に技術的には可能だったはずなのに、ようやく検討がはじまったばかりなのです。我々は、いまでも、紙の訴状に、印鑑を押して、印紙を貼って、郵便で送り、相手に送達するために、郵便局で切手を買って、事前に納めているのです。

 そんな時代遅れな裁判所を相手にしている職業が、突然、AIが登場したからといって、劇的に変化するはずがありません。IT化ですらようやくなのですから。

 まず、AIが技術的に進化して、社会からの信頼を勝ち取るまでに数十年。その後、裁判所がAIに対応するまで、更に、何十年かかるでしょう。私が生きているうちには無理です。