提訴予告は恐喝か

 「あなたの行為は不法行為だから100万円払え。払わなければ、法的措置をとる。」というのは良くある内容証明ですが、こういう文章を送ると、相手から「恐喝ではないのか」と言われることがあります。恐喝罪というのは、相手に害悪を告知し、畏怖させ、財産を交付させる犯罪です。要するに、金などを脅し取る行為です。

 一般市民からすれば、訴訟を起こされるだけでも精神的・経済的な負担になるので、提訴予告は脅されているように感じるのかもしれません。

 しかし、普通に考えれば分かるように、提訴を予告するのは、それだけでは恐喝(や脅迫)にはなりません。相手が自分から払わない以上、法的措置を取るのは当然のことであって、それを相手に伝えることに何の問題もないのです

 例外的に、民事訴訟を予告するのが、恐喝(や脅迫)になるとすれば、次のような場合が考えられます。

①明らかに権利がない場合

 金を請求する根拠もないのに、金を払えと言って、さもなくば訴訟するぞと脅せば、恐喝罪になり得ます。たとえば、ヤクザが飲食店にショバ代を要求するような場合でしょうか。

 ただ、このケースというのは、なかなか例外的で、ほとんどの場合、権利がないことが明らかとまでは言えません。そもそも、お互いの見解が食い違うからトラブルになるのであって、それを解決するのが民事訴訟なのです。

 たとえば、金の貸し借りの場合、借りた覚えが全くなくても、貸したほうが「間違いなく貸した」と言えば、第三者(警察とか)から見れば、「じゃあ、民事訴訟で解決しましょうね。」という話になるわけで、普通は、それを恐喝罪として扱うわけにはいかないのです。

 不法行為で損害賠償請求をする場合でも、相手の行為が違法かどうかという点になると、多くの場合、民事訴訟を経なければ分からないのであって、難癖をつけて金を請求しているのが第三者からみても明白なのは例外的でしょう。

 権利はあっても、過剰に請求した場合、その過剰部分については恐喝になることもあるかもしれませんが、それも、多くの場合、「過剰か否か」は民事訴訟を経なければ分かりません。

②提訴以外を予告した場合

 単に提訴を予告するだけではなく、それがいかに相手にとって不利益かということを書き連ねたりすると、恐喝と評価されるかもしれません。たとえば、「被告になったことが職場にバレるぞ」とか、「家庭が崩壊するぞ」とか、「訴訟の内容は世間に知れ渡るぞ」とか。

 あるいは、まったく提訴とは関係ない行為を予告した場合。たとえば、(教師に対して)「教育委員会に通報するぞ」とか、(会社員に対して)「勤務先のコンプライアンス部に通報するぞ」とか。

 結局、金を払わない場合に民事訴訟に移行するという点は当然のことなので伝えても問題ないのですが、それ以外の不利益を告知して金を払えと言ってしまうと、恐喝と評価される可能性があるのです。

 ただし、交渉事で、相手が望まない措置をとる可能性を示唆するのは、ある意味当然とも言えますし、犯罪の被害に遭ったとき、金銭的な賠償を円滑に進めるために、警察に被害届を出すといった対応を差し控えつつ交渉し、決裂したら被害届を出すという対応は当然許されるべきでしょう。