あくまで法律のはなし

なぜか福岡で働くことになった弁護士が、なぜか福岡で独立しなければならなくなったブログ

示談の意義を知ってほしい

 「ギャンブル依存症問題を考える会」代表田中紀子氏の記事です。

agora-web.jp

 内容としては、ギャンブル依存から派生する窃盗や横領などの刑事事件について。

 全体としては、ギャンブル依存症が根底にある事件が相当数あるのではないかという指摘で、それは良いのですが、ちょっと引っかかったのはこの部分。

これ本当に家族にとっては大変な苦労なんですよね。
金払わされるわ、本人戻ってきてまたギャンブルやるわで、いつまでも悪循環が断ち切れない地獄が続きます。

ある意味、刑事事件は一つのチャンスなんですよ。
ここで安易に示談をとりつけないで、しっかり罪を償わせ治療に繋ぐ!
司法に携わる人、そして家族にその認識を持って欲しいです。

 「安易に示談をとりつけないで、しっかり罪を償わせ」

 「司法に携わる人にその認識を持って欲しい」

 ということですが、私は、刑事弁護をするときに、こういう認識は持てません。

 おそらく、私だけではなく、多くの弁護士もそうなのではないかと思います。

 もちろん、家族の方が、安易に示談しないほうが本人のためになると思われ、示談金を用意しないというのなら、弁護士としては、その判断を尊重します。もしかすると、上の記事は、司法関係者に、そういう意識を持ってほしいという意味かもしれません。

 しかし、「安易に示談しないほうが本人のためになる」という意識を刑事弁護人自身が持つという意味なら、それは無理というものです。

 

 被害者の存在する犯罪では、示談活動をして、不起訴を狙ったり、刑罰を軽くしたりする活動が第一の選択肢になります(自白してることが前提ですが)。

 私も、万引き事案で、小売店の店長と示談交渉したことがありますし、児童を対象とする性犯罪では、保護者相手に示談交渉しました。

 性犯罪などでは、本人が資産を持っているケースも多い(性犯罪は社会的地位のある人が起こすことも多い犯罪類型だから)ので、本人に示談金を用意させることも多いのですが、万引きなどでは、本人に資産がないことも多く、家族が示談金を用意することもあります。配偶者のように、財布が一つの場合であれば、実質的には本人が用意したのと同じですが、別居の親や兄弟に示談金を用意してもらう場合もあるわけです。もちろん、家族のために示談金を支出するかの選択は家族の自由なので、強制ではありません。あくまで、本人が示談を望んでいる場合で、家族が支出しても良いという場合のみ、示談交渉を実施することになります。

 さて、この示談活動ですが、世間から偏見の目で見られているというところまではいきませんが、必ずしも、正確に意義を理解されていないのではないかと思われます。過去には、性犯罪の被害者に対する示談活動を「二次被害」などと表現した記事もありました。確かに、示談する気がない人にとっては、弁護士から、示談の連絡が来ること自体苦痛であるというのは分からなくもありません。

 しかし、考えてもみてください。本人が刑務所に入ったところで、被害者の損害が補填されるわけではないのです。本来であれば、被害者は、損害を補填するために、民事訴訟を提起するのが筋ということになりますが、①万引きなどは被害額が小さく、割に合わない、②実名を出さなければならず、性犯罪などでは躊躇する人が多い、③本人が刑務所に入ってしまうと(あるいはそうでなくても)支払能力がない、といった問題があります。そこで、弁護士が間に入って示談活動をすれば、①少額の損害でも、訴訟を起こさず、賠償を受けられる、②加害者に実名を知られずに賠償を受けられる、③本人に支払能力がなくても、家族が示談金を用意してくれる場合がある、というわけです。

 もちろん、賠償するのは当然のことであり、それと刑事責任は別という考え方もできます。しかし、刑事責任を免れる(軽くする)という目的がなければ、多くの加害者は自分から賠償したりしないのが現実でしょうし、ましてや何の責任もない家族が金を用意する可能性は更に低いでしょう。しかも、示談に応じるかは被害者側が決定できるので、示談を成立させるために、民事で認められる賠償金以上の示談金が払われる場合もあります。であれば、やはり、示談の成立により、刑事責任を免れる(軽くなる)方が、被害者救済という視点からも、メリットが大きいといえるでしょう。

 

 弁護士は、被疑者を不起訴にしたり、罰を軽くするために示談活動をします。しかし、そこには、被害者救済という側面もあるという意識を常に持っています。本人が示談金を用意できず、家族も、本人に罰を受けさせたほうが良いと考えて、示談金を用意しないというなら仕方ありませんが、弁護士側から、刑罰を受けさせた方が本人のためになるという理由で示談を避けるというのは、ちょっと考えられません。

 被害者のいる犯罪では、示談の可能性を検討するのは、刑事弁護人の義務なのです。