あくまで法律のはなし

なぜか福岡で働くことになった弁護士が、なぜか福岡で独立しなければならなくなったブログ

合意書のチェックだけでも依頼すべき

甲と乙は、本件に関し、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務もないことを相互に確認する。

 いわゆる清算条項と呼ばれているものです。和解を取り交わす場合、この清算条項を入れておき、争いが最終的に解決したことを担保します。

 注目してほしいのは、本件に関しという文言です。裁判の席上で和解するとき、裁判官から「本件に関しは入れますか?」と聞かれることがありますが、この本件に関しが入ると、清算は、その紛争の件に限定されることになります。

 たとえば、従業員が残業代を請求して会社を訴えた場合、会社側にも、その従業員が在職中に会社の備品を壊したとか、横領したとかで、損害賠償請求権が存在する場合があります。その裁判で和解するときに本件に関しを入れてしまうと、清算は残業代請求の件に限定されますので、後で会社側から損害賠償請求されるかもしれないということになるわけです。

 逆に、本件に関しを入れなければ、残業代だけではなく、損害賠償請求権も、それ以外のあらゆる債権債務も、全部清算されたことになり、その後、別の紛争が発生することはなくなります。

 

 さて、今回の記事の趣旨は、清算条項について詳しく語ることではありません。

 前々回の記事同様、争いごとに弁護士を入れず、自分で対処しようとする人に対するメッセージです。

 上の清算条項の例から考えてみてください。弁護士以外の人が、こんな細かい文言の違いで、その法律上の効果が違うことに気付けるでしょうか。おそらく、ほとんどの人には無理でしょう。

 清算条項だけではありません。他人と合意書を取り交わすときには、その文言一つで、法律上の効果が全然違うということが起こるのです。

 和解書のテンプレートなど、ネット検索すれば、いくらでも出てきますから、一見自分でも作れそうに見えます。そんなことに金を払うのはバカバカしいと思うかもしれません。しかし、その和解書のテンプレートが、あなたの紛争にとって適切だという保証はないのです。

 それどころか、逆に、自分にとって不利な条項を、それと気づかずに、入れてしまうこともあり得ます。たとえば、先ほどの本件に関しも、これを入れておかなければ、残業代以外に会社に請求したいものがあっても、それも含めて全部清算されてしまうのですから、ケースバイケースで判断しなければなりません。

 本来は、トラブルに巻き込まれたら、初期段階から弁護士に依頼するのがベストですが、経済的問題等でそれができないなら、せめて合意書だけでも、事前にチェックしてもらったほうが良いのです。