あくまで法律のはなし

なぜか福岡で働くことになった弁護士が、なぜか福岡で独立しなければならなくなったブログ

若者の法曹離れを食い止めるには制度の抜本的見直しが必要


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兵庫県弁護士会が、若者の法曹離れに危機感を持ち、PR活動に本腰を入れているという記事です。

具体的に何をしているのか分かりませんが、残念ながら、PR活動などでは全く効果ないでしょう。

法曹養成制度は制度設計に欠陥があり、制度そのものを抜本的に改めなければ、法曹志望者は戻ってきません。PR活動は焼石に水どころか溶岩にソフトクリームです。

そもそも、我々法曹は、長い受験勉強⇒司法修習⇒実務経験の過程で、次第に、法曹を目指した当初の動機を忘れてしまっています。あるいは美化していると言っても良い。

すでに弁護士になった我々からすれば、まだまだ弁護士業界は努力の余地があるように見えるかもしれませんし、やりがいも失われていないかもしれません。しかし、それは、我々が、もう弁護士として生きていくしかないから、そう見えるだけではないでしょうか。

今の業界の状況であれば、我々は、果たして、司法試験を目指したでしょうか。答えは、すでに法科大学院の志願者激減という数字で出ています。

結局、身もふたもない話ですが、弁護士になれば安定して儲かるだろうという魂胆があったからこそ、司法試験を目指したのであって、それがなければ、目指さなかったはずなのです。本当に若者の法曹離れを食い止めたければ、その事実に真摯に向き合うしかありません。やりがいなどアピールしても無駄なのです。

 

しかし、私の意見は、弁護士を再び安定して儲かる職業にするべきだというものではありません。そんなことは、もう不可能だからです。

意識しなければならないのは、若者は儲かることを求めているのではなく、真に求めているのは安定の方だということです。大前提として安定があり、加えて高い収入や社会的地位があれば望ましいと考えて、儲かることを求めているに過ぎません。

これは、若者全般に当てはまることではありませんが、それなりの大学を卒業し、大学院にまで通おうという若者には、おおむね当てはまる傾向です。端的にいえば、偏差値の高いエリートは(弁護士に限らず)不安定な自営業なんか目指さないということです。

弁護士は、従前、自営業では例外的に安定した職業でしたが、その例外は崩れてしまいました。したがって、若者に弁護士を目指してもらうためには、若者に不安定な自営業を目指してもらうにはどうすれば良いかを考えなければならないということです。

これは、いまさら司法試験の合格者数を抑制しても同じことです過去10年間で、弁護士の所得は統計上激減しており、過去10年で激減しているなら、次の10年でさらに激減するのではないかと考えるのは当然でしょう。そのため、いまさら弁護士の経済環境を良くする施策を打ったところで、若者の法曹離れは抑止できないのです。逆に言えば、10年連続で弁護士の所得統計が増加に転じたとしても、志願者が増加に転じるのは10年後ということですし、そもそも、そんな施策は現実的ではありません。

 

では、どうすれば良いか。

多くの法曹関係者が、何度も繰り返していることですが、法曹になるためのコストとリスクを最小化することです。

司法試験合格率増は、リスクを低くする施策ではありますが、ただでさえ合格者のレベル低下が心配されているうえ、合格者が増えれば、ますます業界環境は悪化し、若者の法曹離れは加速するでしょう。

したがって、抑止すべきは、まずコストです。高コスト体質の法科大学院の完全な廃止。

これにより、だれでも司法試験を受けられる制度に戻り、いくら弁護士が儲からない職業と言われるようになったといっても、志願者は増加に転じるはずです。

そして、法科大学院の廃止は、リスクの解消を意味します。

法科大学院発足当初は、法科大学院を卒業しても、司法試験に合格できなかった落伍者という意味で、三振博士などと揶揄されていたことから分かるように、法曹を目指すための教育機関に進みながら、司法試験に不合格では、どうしても落伍者のイメージがついて回ります。

その意味で、法科大学院を卒業しながら、司法試験に合格できなかった人に、公務員や企業法務部などの進路を用意しようという施策には、志願者を集める効果があるとは思えません。

しかし、だれでも司法試験を受験できる制度であれば、気軽に公務員や会社員と併願することが可能となります。

これは、若者にとって、大きなリスクの解消でもあります。

結局、旧試験に戻せというありふれた結論になってしまうのですが、これは、ほとんどの法曹関係者の一致した見解でもあるのではないでしょうか。

 

なお、ひとつだけ、大学が法曹養成機関として生き残る方法があります。

これは、実現すれば、旧試験に戻すよりも効果的で、国民の利益にもなる画期的な制度かもしれません。

それは、法科大学院を廃止し、医学部のように、法曹養成機関を学部段階に降ろし、4年制の法曹養成学部を創設することです。司法試験合格想定年次は4回生とし、合格率は9割程度を想定します。司法試験合格後、学部を卒業し、空白期間なしで、司法修習に突入し、2年間の実務修習を受け、学部と合わせて、事実上6年の養成期間を予定します。

定員は、500名~1500名までとし、法曹需要にかんがみて調整します。設置は、東大、京大、阪大などの旧帝大、早稲田、慶応などの有名私大に限り、試験科目は、大学受験同様、理系を含む全科目を義務付けます。定員を限定することは、司法修習のキャパシティに限界があることで正当化します。理系を含む全科目を義務付けることによって、社会人が、自己努力で再度目指す余地を形式的には残すとともに、事実上は制限します。これにより、偏差値は高いが会社員や公務員の適性がないと自覚しているコミュ障が、最後の拠り所として司法試験にすがる現象を抑制することも可能です。

ただ、残念ながら、この制度には、大学の了承が得られないでしょう。

法曹養成制度を学部に降ろしてしまうと、高校生は、大学進学の際、法曹養成学部を目指すか、普通の法学部を目指すかを選択することになります。

もちろん、法曹を目指さなくても、公務員など、法律を学んだ人の社会的需要はあるのですが、高校生の進路選択などは、必ずしも、合理的に行われるものではないので、法曹養成学部ができると、法学部は下位互換のイメージがついてしまいます(事実、法曹養成学部に進学しながら、公務員になることは可能なので、下位互換と言っても間違いではないでしょう)。そうなると、法学部を擁する大学としては困るわけです。

結局、医学部のようにという掛け声で始まった法科大学院制度ですが、本当に医学部のような制度にしようとすると、一番困るのは大学なのです。