ほれ薬で懲戒!?

 ネットで買ったほれ薬を知人女性のグラスに入れようとした45歳の弁護士が業務停止3か月の懲戒処分を受けたという読売新聞の記事を読みました。

 ネットで買ったほれ薬というのが事実なら、とても45歳のすることとは思えません。あまりにもアホらしくて、呆れ果ててしまいました。

 このニュースの弁護士的見方をまとめておきます。

ネットで買ったほれ薬というのが真実か分からない

 まず、男性弁護士がグラスに入れようとしたのが、本当にネットで買ったほれ薬と称する液体なのかは分かりません。被害者の女性はさぞ怖かったことでしょう。

 本当は睡眠導入剤等だったにも関わらず、すでに物証はなく、弁護士会としては、男性弁護士の弁解をそのまま採用するしかなかった可能性があります。

 ただ、結論としては、「ネットで買ったほれ薬」という判断をした以上、業務停止3か月という重い処分が妥当だったかが問題になります。

私生活上の行為について懲戒してよいか

 まず、前提として、そもそも弁護士としての仕事と無関係の事柄で懲戒しても良いのかという点について説明しておきます。

 「弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会もしくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったときは、懲戒を受ける」(弁護士法56条1項)と定められています。

 したがって、私生活上の行為であっても、懲戒することに法律上の問題はありません。ただし、あくまで弁護士としての品位を失うべき非行でなければならないので、弁護士の品位に関わるかという点が検討されなければならないでしょう。通常、職務上のミスや非行に比べると、私生活上の非行は弁護士の品位とは無関係である確率が高くなるはずです。

 しかし、我々の仕事は、他人間の紛争に介入し、社会正義を実現する(弁護士法1条)とされている以上、他人のグラスに得体の知れない液体を入れる行為は、弁護士としての適性を疑われ、品位を失うと評価されてもやむを得ないと思います。

懲戒処分は妥当か

 大前提として、もしかすると強姦する目的で睡眠薬を入れようとしたのかもしれないという理由で重く処分することは許されません。弁護士会は、あくまで「ネットで買ったほれ薬と称する液体」だったと認定したのですから、処分の重さはこれを前提に決めなければならないのです。

 情状としては、①グラスに入れる前に見つかっており未遂である、②ほれ薬に効果があるとは思えない、③正直に自白しているという点が挙げられます。

 ②は、刑法の世界で言われるところの「不能犯」というもので、たとえば「砂糖に人を殺す効果があると思い込み、他人のグラスに砂糖を入れた場合に殺人未遂罪が成立するか」という論点です。これは、砂糖を青酸カリと勘違いしたというケースではなく、砂糖は有毒であると思い込んだケースが想定されており、犯罪にはならないと考えられています。まるで殺人の危険は発生しておらず、処罰に値しないからです。

 「不能犯」で、しかも「未遂」となれば、これを処罰するのはおかしいのではないかというのが、常識的な法律家の思考でしょう。

 ただ、「ネットで買ったほれ薬と称する液体」には、どんな成分が含まれているか分からず、女性の健康を害した可能性もあります。また、女性側からすれば、何を入れようとしていたのか分からなかったでしょうから、かなりの恐怖を感じたはずです。そう考えれば、懲戒処分自体はやむを得ないところだと思います。

業務停止3か月は妥当か

 懲戒は妥当だとしても、業務停止3か月という重さが妥当だったかどうかは、議論の余地があります。

 弁護士の業務停止処分では、単に一定期間新しく仕事を受けられないというだけではなく、すでに依頼を受けている案件すべてについて辞任しなければならず、着手金等の返金処理も必要になります。顧問契約も全部解除になり、収入を完全に断たれますが、家賃等の固定費は支出し続けなければなりません。キャッシュフローが回らず廃業に追い込まれる可能性もある厳しい処分なのです。

 いかに不届きな行為とはいえ、未遂であり、実害が生じておらず、女性をほれさせるという実現不可能な試みをした弁護士に対する処分としては、重すぎるという考え方もあり得ると思います。

 また、他の懲戒処分事例との均衡上、重すぎるという考え方もできます。弁護士に対する懲戒処分では、職務の過程で依頼者に迷惑をかけている場合でさえ、戒告で済んでいる事例もあり、職務の外で、実害が生じていない行為について業務停止は重いという判断もあり得たのではないでしょうか。

 もっとも、一般市民からすれば、こんな不届きなことをする人物に対しては、業務停止3か月では甘過ぎであり、本来は除名処分にすべきと感じるかもしれません。そもそも、他の懲戒事例の処分が軽すぎるという意見もあるでしょうね。

個人的感想

 懲戒を離れて、個人的感想を言えば、この男性は弁護士に向いていないと思います。

 ほれ薬と言いながら実際は別の薬だったという可能性は置いておくとしても、ネット通販のほれ薬をダメ元でも女性のグラスに入れようとする行為が幼稚過ぎます。世の中には、技術やセンスを売る人格とは関係ない仕事もありますが、やはり弁護士という仕事は他人の紛争に介入する以上、最低限の人格的成熟は求められると思います。

 また、たとえダメ元でも効果があるかもしれないと思ったのであれば、弁護士に必要な最低限の知性を欠いています。そんなもん、どう考えたって効くわけがないでしょ。